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午後は、海辺の街へ
2008/07/15(Tue)
午後は、さまざまな催しや小旅行などを計画し、
お世話をしてくれるソーシャルオーガナイザーのリンダが
学生の集団をひき連れて丘のふもとにひろがる海辺の街を
案内してくれた。


その学生たちの中には、午前中の自己紹介のセッションで
顔を見かけたイラク人の2人組みもまじっていた。
彼らのほかに中東系の顔立ちの学生は見あたらなかったし、
細身の背格好が同じでいつも2人で連れだって歩いているので
よく目立つ。


20代の半ばの年恰好といい背格好や体型のみならず
鼻の下にふさふさとたくわえられたムスタッシュもおそろいだったけれど、
間近で見るとおたがいの印象はずいぶんとちがっていた。


若かりしころのオマー・シャリフの面差しのあるひとりは、
深く青く澄んだ目をしていた。はにかみ屋らしく口数は少ない。
自分の名まえをフセインと自己紹介した以外は口を開くことはなかった。


ブラウンの目に人なつっこい笑みをうかべているもうひとりは、
英語が達者なうえにかなりのおしゃべりだった。
だれかれなく話しかけているその表情があろうことか
ロックバンド「クィーン」のフレディー・マーキュリーに似ている。


しかも、わたしが中学生のころからずっとファンだった
フレディー・マーキュリーの顔の造作を整えると
このようになるのではなろうかと思われる顔だちなのだった。


名まえは、サマル・カリン。
なんとも愉快そうにムスタッシュをうごめかせながら、
おしゃべりする声は、ときにひるがえって妙に高くなり、
とても音楽的とは言えなかったけれど気にならないはずはなかった。

 
大学のある丘の上から海辺の街へくだる道中で、
ほんの少しだけれど言葉をかわすことができた。
なじみのないわたしの日本名を覚えてくれただろうか。
そんなことも、ちょっと気になっていた。


丘をくだりきったところから街なみがはじまっていた。
絵に描いたような古めかしい石造りの家々が
行けども行けどもとぎれることなく軒をつらねている通りを
排気ガスをまきちらして通りすぎていく車があって、
何だか風景になじまないような気がした。


というか。映画のセットか遊園地のおとぎの街と見まごうばかりの
この街自体がはりぼてではなく、実在する街なのだということが
どうにも信じがたい気がするのだった。


目抜き通りの家々の1階部分、あるいは全体は店舗になっていて、
レストラン、カフェ、ギフトショップ、本屋さん、薬局に銀行、
スーパーやパン屋さん、それから、ハンバーガーショップや、
中華料理のテイクアェイの店もあった。


にぎやかな目抜き通りをぬけると海岸ぞいのプロムナードに出た。
人口1万人ばかりのアベリストゥイスは大学の町でもあるけれど、
海辺のリゾート地としてもその名を知られている。
シーフロントには高いポールの上で各国の国旗がはためき、
その足もとにはアイスクリームやお菓子を売るスタンドが建っている。


潮の香りをふくんだ海風をほおにうけてプロムナードを散歩したり、
青く凪(な)いだ海に面するベンチに腰を落ちつける観光客のまばらな姿がある。
ビーチでは、やさしい目をしたロバが子どもを背にのせて、
ゆったりとした足どりを砂にうずめるようにして運んでいく。


海に面して建ちならぶ凝った造りのホテルやゲストハウスがつきると、
ウェールズ大学の中でも (ウェールズ大学はウェールズ各地に分散していて
この町にあるアベリストゥイス校とその他8校の分校からなっている) 、
最も古い建物オールドカレッジが堂々とした姿をあらわした。
塔の壁面にはめこまれている巨大なモザイク画がひときわ人目をひく。


さらに、そのむこうには古城の廃墟が横たわり、
翼を広げて飛翔する女神像をいただく戦没者追悼の碑が建つ足もとから
はるかな大西洋の大海原がはじまっているのだった。


その場所で、英語研修の学生たちのツアーは解散となった。
思い思いの方角へ散っていく学生たちの中に、
サマル・カリンとフセインの姿もまじっていた。
肩をならべるふたりの姿はじきに見えなくなった。


何人もの学生たちと楽しげに言葉を交わしあっていたサマル・カリンが、
自己紹介に四苦八苦しているわたしと明日からの英語の授業で
同じクラスになるなんて万が一にもないだろう。
でも、学内のどこかで顔を合わせることがあったら、
そのときには、もうちょっと話ができるといいのになと思った。


わたしは方向音痴で街のどの通りを歩いてやってきたのか
まるで覚えがなかったものの大学へ帰る方向だけはわかっていた。
海を背にして坂道をのぼっていけばいい。


大きな一本道にぶちあたり、ひたすらその道をのぼっていくと、
見おぼえのある大学と学寮の建物が見えてきた。
こうして、わたしは学寮コートマウワーのF棟にある
自分の部屋へ無事に帰りつくことができたのだった。



その夜のことだった……。
夏の長い日が水平線のむこうに没して、
あたりがひっそりとした薄闇につつまれようとするころ、


共同キッチンから自分の部屋へむかうわたしの目の前を
人影がよぎった。
その人影もわたしに気がついたらしく足を止めた。
そして、


「ハ~イ。ミヤコ~!」


と陽気な声をかけてきたのは、
ムスタッシュの口もとに無心の笑みをうかべるサマル・カリンだった。
わたしの名まえ、覚えていてくれたんだ。


でも、どうしてまた、サマル・カリンがこんなところに……?
と思って見送る後ろ姿はわたしのとなりの部屋の前で立ち止まり、
ドアに鍵をさしこむと、そのドアのむこうに消えたのだった。





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