スポンサーサイト
--/--/--(--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事のURL | スポンサー広告 | ▲ top
たぶん一生忘れることのない奇妙な朝のできごと
2008/08/08(Fri)
それは、この夏休みのとある早朝のこと。
もう少し正確に言うと、午前6時15分ごろ、
まだ眠りについている住宅地の静寂をやぶって、


カッカラカッカラ、カッカラカッカラ、
カッカラカッカラ、カッカラカッカラ、
カッカラカッカラ、カッカラカッカラ……。


わが家の前の通りの彼方からアスファルトをけちらすような
軽快でリズミカルなもの音が近づいてくるのを聞きつけて、
目を覚ましたのでした。


まだ半睡の頭の片すみでぼやっと考えたことには、
これって、なんだか馬のヒヅメの音のような……。
だけど、こんな時間に住宅地を乗馬するするかな?


たしかに街のサッカースタジアムで試合があるときなどは、
なだれを打ってくり出してくるサッカーファンの交通整理する
乗馬の警官を見かけることはあるけれど、
それ以外、街なかの路上で乗馬をする人など見かけたことはないし、


しかも、ふだんは通りの住人か通りの家に用のある人や車以外に
入ってくることのないわが家の前の通りを馬がかけぬけていくなんて
まさかそんなことあるはずないじゃあないの。


と、結論を出して、
再び眠りの中にもぐり込もうとたぐりよせたふとんの反対側が
勢いよくめくれあがったかと思うと、


窓ぎわに立ってカーテンをかきわけたすきまから
通りを見おろしているイアンが、
あっけにとられたかのように、
ぽろりとつぶやいたのでした。


「馬だよ。今、馬が3頭かけてった」


やっぱり……。
と思ったことを思えば、わたしの耳にも、やっぱりあれは、
馬のヒヅメの音としか聞こえなかったからなのでしょう。


ベッドにもどってきたイアンが枕もとの電話をとりあげ、
いったいどこに電話をかけているのかと思ったら、


朝っぱらから酔っぱらってるわけじゃあないんだがね。
馬が3頭、今、うちの前の通りをかけぬけていった。
モーターウェイの方へむかったから
交通に支障が出るのではと思って通報した。


なんてことを話しているので、
最寄りの警察署にかけているのだとわかったのでした。
そして、イアンが受話器をおいたと思ったら、


今度は、さっきとは反対の通りの下の方から、
カッカラカッカラ、カッカラカッカラ、
カッカラカッカラ、カッカラカッカラ、
カッカラカッカラ、カッカラカッカラ……。


再び、馬のヒヅメの音が聞こえてくるではありませんか。
けれども、前回の軽やかなトロットではなくて、
ギャロップに近いせっぱ詰まった速足で、


今度は、その音を聞きつけるやふとんをはねのけ、
窓ぎわへ寄ったわたしの目にも、
わが家の前の通りをたてがみをなびかせて疾駆(しっく)していく
3頭の馬が認められたのでした。


しかも馬たちに乗馬している人の姿はなく、
3頭ともいっさい馬具をつけていないはだか馬。
先を行く2頭はおとなのくり毛の馬で、
最後の1頭はポニーくらいの大きさのダルメシアンのような
黒と白のだんだら模様の子馬なのでした。


これは、まぎれもなく現実のできごとで、
そのはだか馬たちは何かに追われてでもいるかのように
来た道をかけのぼっていったのでした。


はぐれ馬がたまたまこの通りに迷いこんできて、
通りの下の方でだれかに追い払われてかけもどってきたのだと
イアンは言うのですが、


なんだか、わたしには、この3頭の馬たちは、
わざわざこの通りに危急を告げにやってきたような
そんなふうにも思えたのでした。


その後、3頭の馬たちが無事に飼い主のもとへ
もどれたかどうかについては不明なのですが、
3たび、わが家の前の通りに姿をあらわすことはありませんでした。


そして、いつもより少し早めに起床したイアンが仕事に出かけていき、
それからもずっと前夜からの眠りをむさぼっていたユインが
ついに目をさまし、朝食をとり終えたころ、
玄関のベルが鳴ったのでした。


玄関先に立っていたのは、わが家の隣人、
わたしたち一家が今の家に越してくる40年も前から
隣の家に住んでいて、


わたしたちが越してきた8年前にはすでに未亡人となって
ひとり暮らしをしていたネルの息子アランだったので、
彼が口を開く前に、その用件については察しがついたのでした。


ネルは、この春、わたしたち一家が日本に里帰りしているあいだに、
自宅の前の路上で倒れているのを発見され、病院に運ばれたのでしたが、
脳梗塞で半身が不随となり、以来、入院生活を送っていたのでした。


日本への里帰りからもどったわたしたち一家は、
ネルが入院したことを知ったときから週に1度、
ネルのお見舞いに病院を訪ねていたのでしたが、


わたしは、玄関先に立つアランの姿を認めた瞬間に、
次の週に病院へ行っても、
もうそこにはネルはいないのだと悟ったのでした。


3頭のはだか馬がわが家の前の通りをかけぬけていったのと、
アランがネルの訃報(ふほう)を伝えるためにわが家を訪れたのが
同じ日の朝だったというのは、偶然の一致にすぎないのだと思います。


けれども、わたしは、この夏のこの朝のできごとを、
たぶん一生忘れることはないだろうし、
いつもいっしょに思い出すことになるのだろうと思うのです……。





スポンサーサイト
この記事のURL | イギリス暮らしおもしろ事情 | ▲ top
| メイン |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。