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突然の不幸にみまわれたとき
2008/09/16(Tue)
突然の不幸にみまわれたときには、
「目の前がまっ暗になる」ものだと思っていたけれど、
まったくそんなことはなかったのでした。


ただ、ときどきわけのわからない不安がおそってきて、
恐い恐い恐い恐い……。
と、ひっきりなしにつぶやきつづけている自分がいる。


それ以外のときは、夜あまり眠れないせいかぼんやりとして、
接着剤が乾いてはがれ、ペラリっとそり返ってしまったスティッカーみたいに、
自分が世界から剥離(はくし)してしまったように感じるばかりで、


世界のできごとはうっすらとしたもやにつつまれて
さわっても手ごたえがない
自分からはとてつもなく遠いことのように思われるのでした。


その一方で、イアンが深刻な血液の病気に
かかっているかもしれないと思った日から、
顔の皮膚や鼻が赤い。目が充血する。
皮膚がかゆい。光がまぶしい。


イアンの中に見つけ出したくないその病気の兆候ばかりを
イアンの中に探さずにはいられなくなってしまったのです。


こんなにお天気の悪い今年の夏でも、
やっぱり、お日さまはさしていて、
日に焼けちゃったんだね、イアンちゃん。


そう思って見あげていた赤い顔も、
まじまじとのぞきこんでみると、
それは日焼けの赤さではないようだし、


ほほより赤い鼻には、
か細い血管の赤紫色の筋が何本も、
不気味にうかんでうねっているのでした。


「もう、いいかげんにしろ~っ!」


始終じろじろと自分の顔をのぞきこまれるのに嫌気がさしたイアンが、


「血液の再検査をするからって
病気と決まったわけじゃあないし、
だいたい自分はどんな病気でもないんだっ!」



と断言するので、


「だって、ガンだって自覚症状がほとんどないから
早期発見がむずかしいんじゃあないのっ!」



と言い返しはしたものの、
赤血球の増える病気を放っておいたら余命は半年から1年半で、
治療したって平均15年しか生きられないんだからね。
とは言えないわたしなのでした。


そして、イアンが、そのあと語調をやわらげて、


「ホリデーにも出かけることだし、
とにかく1か月も先の血液検査のことはしばらく忘れろよ。
いくら心配したって検査の結果が変わるわけでもないだろ」



と言うもので、
それもそうだと納得したわたしは、


「うん。忘れることはできないと思うけど、
忘れるように努力する」



と、イアンに約束し、
自分でも心に決めたのでした。


そうして、やってきたその週の週末、
わたしたち一家は、山のような荷物を車に満載し、
湖水地方の1週間のホリデーへと出かけたのでした。


その日は、北イングランドは久々のお天気で、
気分もうきたつような青空のもと、わたしたち一家のホリデーは
明るい幕開けをむかえたかのように見えたのでした。


ところが、グラスミアのコテージに落ちついた夕食後のこと、
シャワーをあびたイアンがラウンジにもどってきて、
わたしのかけているソファのとなりにどっかと腰をおつちけると、
その重みで底がぬけるかと思うほどソファがかしいだもので、


「うわぁ。このソファ、いやに沈むね~」


と言って、
イアンの方を見ると、


「イ、イアンちゃ~ん。
やっぱり、目、目、目が赤いよ~」



イアンと約束し、
自分でも血液の病気のことは忘れようと心に決めたにもかかわらず、
思わずそう言葉にせざるをえないほどイアンの目が充血し、
恐ろしいほどに赤くなっていたのでした。


「父さん。ほんとうに、まっ赤だよ」


いやに落ちつきはらった口調でユインもそう言うので、
イアンは反対する言葉は口にせず、
わたしもそれ以上は何も言わなかったのでしたが、


その夜、
わたしは胸の奥深くにおしこめていた不安のふたを
自分であけてしまったのでした。





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