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眠れない長い長い夜のはてに
2008/09/17(Wed)
わたしたち一家が湖水地方のホリデーへやってきて
グラスミアのホリデーコテージに落ちついた夜……。


ベッドが変わるとなかなか寝つけないイアンが
寝入ってしまったあとも、
そのかたわらでいも虫のように身を丸め、
刻々と更けていく夜に思いをめぐらせていると、


ついっとひとすじ、
冷たいものがわたしの目じりをつたって
こぼれ落ちていったのでした。


すると、もうそれはとめどなくなって、
あとからあとから同じ道すじをたどっては
こぼれ落ちていくのでした。


なのに……。
困った。ティッシューがない。
さらりとした涙だけならそのまま手でぬぐうか、
まくらをぬらせばいいだけのことなのだけれど、


わたしの鼻をつまらせ、呼吸を困難にしている
始末におえないシロモノの方も、
今にもこぼれ落ちきそうな気配を覚えて、


はたと思い出したのは、
ベッドサイドに置いてあるバッグの中に、
小さなハンカチが1枚入ってたってこと。


暗闇の中で手さぐりをして、
ようやく探りあてた救いのハンカチを
顔にあてがったそのとき、


「どうしたんだい?」


むっくりと半身をおこしたイアンが、
わたしの背なかから声をかけてきたのでした。


「泣いてるのか?」


という問いに答える代わりに、
どうせ起こしちゃったんだからいいよねと思ったわたしは、
深夜の闇のしじまを震がいさせる勢いで
思いっきり鼻水をかんだのでした。


そして、暗闇の中で仰天しているイアンの気配を感じたものだから、


「てへへっ。起こしちゃってごめんね」


と言うと、
アッハアッハ声をたてて笑いながらもう1度鼻水をかみ、
すでにぐっしょりとぬれそぼっている小さなハンカチで
ごしごしと涙をふきとったのでした。


「だいじょうぶだから。ごめんごめん」


「ほんとうに、だいじょうぶ?」


と、念をおすと、
たぶん、わたしの涙のわけを察していたイアンは、
それ以上何も言わずに横になり、それからしばらくすると、
再び安らかな寝息をたてはじめたのでした。


その寝息が聞こえはじめてほっとしたものの、
わたしがこんなに心配してるっていうのに、
どうして、当の本人がこれだけのん気かなあ~。


これは、何かがおかしい。
絶対に、どこかが大幅にまちがっている。
という気がしはじめたのでした。


本来なら、不安をかかえて眠れないのは
不治の病にとりつかれているかもしれないイアンのはずで、
妻のわたしは、イアンの不安が少しでもやわらぐよう
励ます役回りのはず……。


これでは立場が逆転している。
今からこれじゃ、もしも最悪の事態が現実になってしまった場合、
いったいどうするのだ。


危篤(きとく)の病床で虫の息となっているイアンに、


「だいじょうぶ? ほんとうに、だいじょうぶ?」


と、その息の絶えるときまで
涙と鼻水にかきくれてとりすがるわたしを励ます声を
かけさせることになりかねないではないか。


そこまで考えたときに、はたと気がついたのでした。


イアンと出会った日から、
イアンはずっとわたしをしあわせにしてくれていて、
わたしはずっとイアンに感謝してきたので、


そのことを言葉に出して伝えることはしてきたけれど、


イアンがわたしをしあわせにしてくれているからといって、
わたしもイアンをしあわせにしてあげなければと思ったことは
これまでに1度もなかったのじゃあないか。


だから……。



これからは、わたしがイアンをしあわせにしてあげる。



そう心に決めると、
漆黒(しっこく)の闇に閉ざされた暗夜の中に、
ほのかな光がまたたいたような気がしたのでした。


でも、いったいどうしたら
わたしがイアンをしあわせにしてあげられるのだろう。
考えてみると、思いあたることは何もない。
でも、まあ、それはこれから探せばいい……。


そこまで考えたころ、
カーテンのむこうがうっすらと明るみを帯びて、
悶々(もんもん)とすごした長い夜がしらじらと明け、
わたしはようやく眠りにつくことができたのでした。


その眠りは、浅くて短かったけれど、
ここしばらく忘れていたおだやかで快い眠りだったのでした。





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