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災難よ、こんにちは
2008/09/22(Mon)
意味のないことに意味を見いだすことが、
ばかげたことだとわかっていても、
そのことで救われるなら、
それはまったく意味のないことではないのかもしれない。


少なくとも故障した車の修理に右往左往しているあいだは、
ずっと悪かった湖水地方のお天気もまずまずで、
車が身代わりになってイアンにふりかかってきた不運を
ひき受けてくれたのじゃあないかなと思えてくると、


吹き荒れていた不安の嵐がおさまって
凪(な)いだわたしの心の中にも、
やわらなか陽光がふりそそぐのを感じていたのでした。


けれども、故障した車が修理されて快調に走りはじめると、
それはそれで、


「ああ、よかったね~」


とも思えるのでした。
車が故障しているあいだぶつぶつ不平をならしつづけていたイアンも、
グラスミアのホリデーコテージにむかってハンドルをきりながら、


「よ~し。これで明日は、ヘルベレンだ~!」


と陽気な声をあげるのでした。
雨にたたられたり、車が故障したりで
思うように山や丘歩きができないでいたわたしたち一家、


いよいよホリデーの最終日になってしまった翌日は、
イングランドで2番めに高い山ヘルベレンへ登ろう~!
と決めていたのでした。


こうして迎えた湖水地方のホリデー最終日。
前夜の天気予報で言っていたほどのお天気ではなかったものの、
山々のてっぺんが霧の綿帽子をかぶっていることも、


これまでのウォーキングのように
雨に行く手をはばまれることもなくヘルベレンへ登り、
予定していたウォーキングコースを踏破して
ふもとの駐車場へと下山することができたのでした。


そして、もう何だかそれで、それまでの、
災難とは言えないまでも、ついているとは言えないホリデーの
全部の埋め合わせができてしまったような気分で、


ちょっと遠回りにはなるけれど、
ホリデー最終日の夜は、再びケンダルの町まで行って
外で夕食をとることにしたのでした。


その帰り道でのこと……。
グラスミアのコテージまでならじゅうぶんだけど、
翌日、ニューキャッスルへ帰りつくまでのガソリンがない
とイアンが言うので、ガソリンスタンドに寄ったのでした。


そして、
(イギリスのガソリンスタンドは、自分で給油するシステムなので)
給油をしようと、車の外に出たイアンが、
ズボンのおしりのポケットに手をあてるなり、


ぼそりと、ひと言、言ったことには、


「サイフがない」


もうそのあとは、給油どころではなく、
ポケットというポケット、車の座席の周辺やら
車のブーツに積んであったジャケットのポケットまでを


いつものイアンに似合わない
あわてふためいた様子で探索するのでしたが、
やっぱり、サイフは影も形もないのでした。


「ケンダルへ帰るぞ」


イアンには、落としたのはあそこだと思う場所があったのでしたが、
たとえイアンがサイフを落としたと確信している場所で、
ほんとうにサイフを落としていたにしたって、


今からケンダルへひき返して、
落としたサイフがそのままその場所に転がっているなんてこと
あるはずないじゃあないの。


すると、
すでにケンダルへむけて車を走らせはじめたイアンは、
あたかもわたしの心のつぶやきが聞こえたかのように、


「善意の人が拾ってくれてるかもしれない」


なんて言うのでしたが、そんなおめでたい人は、
きっと、イアンちゃんだけだと思うな。


「イアンちゃんは、
拾ったサイフを警察に届けてあげたけどねえ」



と言うと、
本人はすっかり忘れてしまっているらしく、


「そんなことあったっけ?」


「うん。あったよ。
でも、わたしが落としたサイフはもどってこなかった」



だから、それ以来、イアンと出かけるときには、
わたしはサイフを持ち歩かないことにしているので、
イアンがサイフを落とすと、
わたしたち一家はほんとうの一文無しってわけなのでした。


それに、イアンはカード類も、
落としてしまったサイフに全部まとめて入れていたのでした。


ということは、
ホリデーコテージの支払いはすんでいるので、
ニューキャッスルまでガソリンがもてば、
これからすぐにでも自宅に帰ることができて、


自宅に帰りつけさえすれば、わたしのサイフの中には、
急場がしのげるくらいの現金は入っていて、
銀行やクレジットカード会社に連絡をとって
失くしたカードの処理もできたのでしたが、


ガソリンがないということは、
わたしたち一家、無一文のまま、
湖水地方で立ち往生するという状況に
おちいってしまったということなのでした。


でも、もしガソリンがなくなっていなかったら、
サイフを落としてしまったことに気がつくのに、
もっと時間がかかっていたことでしょう。


まあ、だとしても、いずれにしたって、


「絶対に、見つかりっこないと思うな。
ユインは?」



ケンダルの街の通りに車を乗り入れると、
ひとりでサイフを探しに出ていくイアンを見送りながら、
わたしは後部座席のユインに声をかけたのでした。


「ぼくも、絶対にないと思うよ」


「だよね。でも、それじゃあ、
どうしてうちに帰るんだろうねえ」



「さあ~」


ぼそりぼそりと車の中で会話をついでいると、


なかなか帰ってこないな。
きっと、落としたサイフを血なまこになって探してるんだろうな
と思っていたイアンがそう急(せ)いたようすでもないけれど、
大股で帰ってきたのでした。


そして、運転席のドアを開けると、


「あったよ」


と言ったのでした。


「え~っ。そりゃ、よかった~」


心からそう言ったわたしの中には、
どうしたわけか、そんなバカなことがと、
あ然としているもうひとりの自分がいたのでした。


イアンが言うことには、サイフを拾ってくれた人は、
サイフを落としたことに気がついたイアンが
もどってくるにちがいないと思って待っていてくれたのでした。


そして、サイフを返してくれると、
イアンがいくらお礼を申し出ても固く辞退して、
受けとってくれなかったのだそうです。


「この世の中、そう捨てたもんじゃあないよな。
はははっ」



と、いかにも明るい口調で言うイアンに、


「そ、そうよねえ」


と同意しながら、
わたしが考えていたことは、
まったく別のことだったのでした。


こんな幸運なことがおこってしまったってことは、
その代わりに、もしかして……。


故障した車が身代わりになってひき受けてくれた
イアンの不運をイアンのサイフがもう1度拾ってきてしまった
なんてことはないでしょうねえ~。


意味のないことに意味を見いだすことが、
ばかげたことだとわかっていても、
そのことで救われるなら、
それはまったく意味のないことではないのかもしれない。


だけど、いったん、
意味のないことに意味を見いだしてしまうと、
そのばかげた思いにとりつかれて、
救いをなくしてしまうことだってあるのかもしれないのです。


まさに、そのときのわたしがそうであったように……。





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