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イギリス最高峰ベンネヴィスに挑む
2009/10/03(Sat)
7月23日(木)


天気予報によると、
今日の午前9時以降は、ずっと雨……。
明日は、回復傾向。


だけど、スコットランドの天気予報は信用できない。
明日までお天気の回復を待ったとしても、
明日の方がさらにお天気がくずれてしまう場合だってある。


それに、わたしたちに残されているのは、
もう今日と明日だけなのだ。
今日、登れないほどの大雨になったら退散してこよう。
今日がダメなら明日に賭ける。


わたしたちは、今日、
宿願のベンネヴィス登頂を決行することに決めた……。


それは、今をさかのぼること7年前のこと。
その夏も、毎日、雨がふらない日はないという
1週間をスコットランドですごしていたのだったが、


せっかくだから、
イギリス最高峰ベンネヴィスに登ってみよう~!
と思いたった。


高い山のないイギリスのこと、イギリス最高峰といっても、
ベンネヴィス山のてっぺんは、たかだか標高1344メートル。
気象の変化の激しい冬山では遭難者も出ると言うけれど、
夏場のこの時期なら何てことない。


みたいな軽~い気持ちでいたのだけれど、
とにかく毎日雨ばかりなので登る機会に恵まれなくて、
それでも、やっと、今日こそはと思った日に、
雨が小ぶりになったのは、もうお昼近かった。


登りはじめが遅かったので、
その日にてっぺんまで登るのは、
とうてい無理だとわかっていた。
けれども、行けるところまで行ってみることにした。


標高約半分の600メートルあたりで
登山道が大きく切り返す場所まで登った。
今日はここまでと決めてお昼にした。


ところが、そのあと、下山しようとしたら、
突然、ヒザにきた。
痛いヒザをかばいながら、ヒョコヒョコ、
登ってきたよりずっと長い時間をかけて下山した。


ベンネヴィスの夏登山を軽く見ていたことを反省した。
だけど、半分のままでは悔しい。
いつか、あのてっぺんまで行きたいと思った……。


近年、冬場になるとシクシクとヒザが痛むようになった。
近場の丘歩きに出かけても、帰りのくだりにさしかかると
ヒザが痛みはじめる。


ベンネヴィスに登りたいなら急いだ方がいい。
そこで、去年の夏、6年ぶりに、
ベンネヴィスのふもとにやってきたのだった。


けれども、やっぱり、雨にたたられて、
去年は、まったく登る機会に恵まれなかった。
だから、今年こそは、3度めの正直にしたかった。


いつ雨が落ちてくるともしれない灰色の雲が
低くたれこめる道を
ベンネヴィスの登山口のあるビジターセンターへ向かった。


午前8時20分。
閑散としたビジターセンターの駐車場に到着。
ウォーキングブーツにはきかえ、
ウォーキングスティックをたずさえて、


さあ、行こうと歩きはじめたら、
その瞬間を待っていたかのように、
冷たい小雨がほほを濡らしはじめた。


P1090687a.jpg
ジャケットを着込むことにしたイアン


小雨はふったり、やんだりしながらも、
大降りになることはなかった。
雨のせいで、登山者の数も少ない。


1時間半ほどで、標高600メートル、
登山道が大きく切り返す見覚えのある場所までやってきた。
そのあとは、しばらく道幅が広がり、登りがゆるやかになる。
なんだ。これなら楽勝じゃあないかと思った。


P1090695a.jpg


ところが、そのあとが長かった。


P1090702b.jpg
太陽がないので、地面に「太陽」と書くユイン
ここまでは、元気だったのだけれど……



足もとは、ゴロゴロとした大きな石の小道となり、
登る傾斜も急になる。


あたり一面霧ごんで、まっ白い視界の中、
もうそこまでかと思って登ると、
またその先に、大きな石の転がる道が
果てしないかのようにつづいている。


P1090703b.jpg


吹きなぶる風にあおられて、
小雨のような霧の粒がピシピシと
ほほに張りついてくる。


子供時代はずっと横綱級の肥満児で、
おまけに偏平足、中学も高校も帰宅部で、
どんなスポーツも大の苦手、
だけど、歩くことだけは好き……。


だから、富士山じゃああるまいし、
たかだか1300メートルのベンネヴィスくらい
わたしにだって登れるのじゃあないかと
高をくくっていたのだ。


そしたら、つい数週間前のこと、
標高が低いからベンネヴィスで高山病になることはないが、
富士登山と同じくらいの標高差を登らなければならない
なんてことを聞いてしまった。


以来、やっぱり、
わたしがベンネヴィスへ登るだなんて、
高望みだったのかもしれないという思いが、
チラチラと頭の片すみをかすめはじめたのだった。


P1090709a.jpg


そうか。これがベンネヴィスだったのだ。
けれども、もうすでに頂上近くまで来ているはず。
あの白くかすむ道を登りきれば、今度こそ、
そう思って、大きな石ころ道を踏みしめていく。


いったい、あれはなんだ……。


ぼやっと白くかすむ視界前面から、
何か不吉な黒いもやのようなものがこちらに向かって、
ゆっくりとほどけてくるような気がした。


先を行く父子連れの子どもの方が、
その方向を指さして、


「雪だよ……!」


と、叫ぶのが聞こえて、
よくよく目を凝らしてみると、


黒い不吉なもやのように見えたのは、
霧の流れている黒い石の転がる山斜面で、
その手前には10メートル四方くらいの雪が
斜面をおおっている。


P1090715a.jpg


その灰色がかった雪の斜面が地面に見えて、
背後の黒々とした石の斜面が、
地面から立ちあがっている
黒いもやに包まれた魔物のように見えたのだった。


ザリザリと音をたてる夏の雪を踏みしめ、
もう頂上は目と鼻の先だという期待感に支えられ、
先へ足を進める。


霧の中に、ぼやっと、
石積みのモニュメントや
小屋のような建物がうかびあがってきた。


P1090728b.jpg


白いもやをまとって幽霊のように見える人影が、
そのあいだにたむろしたり、腰を落ちつけている。
いやに平たいけれど、
どうやら、この場所が頂上にちがいない。


お天気がよければ、
ふもとのフォートウィリアムのみならず、
遠い洋上にうかぶヘブリディーズの島々まで見わたせるのだと
イアンは言うけれど、


せいぜい10数メートルほどの範囲の
大きな石ころの転がる地面がかすかに見えるだけで、
視界は、ひたすら白く凍りついている。


持ってきた服やらズボンやらを身に着けたあと、
そのとがった石の上に腰を落ちつけて、
お昼にする。


クールバックに詰めこんできた
おしぼりや緑茶は冷たすぎる。
おにぎりだけをかじって、
イアンの熱い紅茶をすする。


歩いていればまだいいのだけれど、
座りこんでしまったら、
指先から感覚がなくなってしまったので、
早々に立ちあがる。


どうして、そんなのん気な顔をして、
悠長にチョコレートなんかかじっていられるのだ。
イアンちゃん!


ガタガタ震えはじめたユインも立ちあがった。
ついに、念願だったベンネヴィスのてっぺんをきわめたのだ!
なんて感慨はまったくなかった。


「早く、行こうよ~っ!」


とにかく寒い。
一刻も早く、この凍えるてっぺんをたち去りたかった。
やっとイアンが準備をととのえて、
くだりはじめたと思ったら、


「あっ、忘れてた」


なんか言って、立ち止まる。


寒いよ~っ。
こんなところで、いったい何なんだ~。
足踏みをしながら待っていると、


しょっていたバックパックを肩からおろして、
イアンがごそごそ取り出したのは、
GPS(グローバル・ポジショニング・システム) 。


「見ろ見ろ。標高1340メートルだぞ!」


「うわぁ。ほんとうだ~!」


ユインも驚きの声をあげる。


何驚いてんのよ~っ。
ここはベンネヴィスのてっぺんなんだから、
そんなの当たり前じゃ~ん!


「見た見た。だから、さあ行こう!」


いつもながらディーゼルのユインは、
登りにへこたれていたのが信じられないような勢いで、
スタコラサッサと駆けおりていく。


いつもくだりになると途端に痛みはじめるわたしのヒザは、
思ったほど痛まなかった。
それでも、坂道が終わって石段にさしかかるとこたえてきた。
カニさん歩き気味になりながら、ヒョコヒョコくだっていく。


ようやく体があたたまってきて、
着こんでいたフリースやズボンを脱ぎ、
てっぺんでは飲みたくもなかった冷えた緑茶をのどに流しこむと、
ああ、天国~っ。


よくこれだけ登ってきたもんだなあと、
われながら感心するほどくだりにくだる。
途中、霧が晴れて下界の景色が見えると、
イアンが写真を撮る。


P1090741a.jpg
画像の左手が地上で、右が標高600メートの高台


てっぺん近くでわたしたちがくだるのと入れちがいに
登っていった登山者の中に、自転車を肩にかついでいた人がいた。
ちらっと、どうして? とは思ったけれど、
とにかく寒かったので、疑問はすぐ消えうせていた。


自転車をかついでいた人がくだりの途中で、
わたしたちを追い抜かしていったときに、
イアンが聞いた。


「自転車をかついでいるのには、
何か意味があるのかい?」



自転車をかついでいる人といっしょにいた
自転車をかついでいない人の方が答えてくれた。


自転車をかついでいる人は、
イギリス南西端のコーンウォールの突端ランズエンドから、
イギリス最北端のスコットランドの北の果てジョンオグローツまで、
サイクリングをしているのだという。


しかも、その途上、スリーピークスと呼ばれる
イギリス各地の最高峰の山々、


ウェールズ最高峰のスノードン、
イングランド最高峰のスコーフェルパイク、
スコットランド、および、イギリス最高峰の
このベンネヴィスの頂上を自転車ごときわめる。


「この試みも、あともうちょっとだよ」


そう言い残して、
自転車をかついだ人とお伴のペアは、
あっけにとられて見送るわたしとイアンを残し、
軽々とした足どりで登山道を駆けおりていったのだった。


7年前にベンネヴィスに来たときには、
大きなバックパックをしょって
わっせわっせジョギングしながら登山していく熟年集団や、


もう60代も半ばを過ぎているかに見える
短パンにランニング姿のご老人が、
同じように駆け足で登山していく姿を見かけて、
驚いたのだけれど、今回も、またびっくり……。


ふもと近くまで下りてくると、
薄日がさして、あたたかくなってきた。


そんな陽気に誘われてか。
登山をするには時間は遅いものの
ちょっと行けるところまで行ってみようってな感じで、
7年前のわたしたちみたいに登ってきたらしき人々がいた。


その中で言葉をかわした家族連れの女性が、
頂上まで行ってきたというと、
パッと顔を輝かせて、


「ウェルダン!」


と、言ってくれた。
その女性の言葉を聞いた瞬間に、


そうだった。
わたし、「よくやった(ウェルダン)! 」んだ。
とうとう、ベンネヴィスに登ってきたんだと思った。


てっぺんについたときには、
特別、感じなかった感慨や、実感が、
それから、じわじわとこみあげてきた。


ビジターセンターの駐車場にもどって、
時間を確認すると、4時20分だった。


往復6~8時間と言われているベンネヴィス。
わたしの足なら10時間はかかるだろうと思っていたけれど、
ちょうど8時間でおりてくることができた。


人には普通にできることが、
自分には普通にできないのが当たり前だと、
子どものころからずっと思いつづけてきた。


だけど、
今日は、できたじゃあないか。
わたしにも……。


薄日のさす中、車の窓ガラスに、
ぽつぽつと小粒の雨が張りつくのを見守っていると、
心地よい疲労感と満足感が全身を包んでいくのだった。


今日ののぼり1300メートル。
歩いた距離15.5キロメートル。





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