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悪魔を見た日 2
2007/07/28(Sat)
今日のお話は、昨日のお話、「悪魔を見た日 1」からつづきます。


イアンが2階のフラットへの階段をのぼっていってから、
ものの数分たったころ、


「お~い。つかまえたぞ~」


えっ。何を……!?
と思うと同時に、
やっぱり、いたんだと思ったわたし。


「あがってこいよ~」


のんびりとしたイアンの声にはげまされて、
そうろりと階段をのぼっていったところ、


「ほら、ベッドルームのカーテンにしがみついてたんだ」


何かをくるみこむようにしていた両手のひらをわずかに開くと、
小さくて黒い頭が顔をだしたのでした。


こ、こ、こわぁ~い。


それは、小さいくせに、鼻づらのツンととがった
何とも凶暴そうな顔をつきだしたコウモリだったのでした。


イアンが羽のはしとはしを持って広げると、
骨と黒くてうすい羽が、まさにコウモリ傘が半円形に
ひらくように広がりました。


やっぱり、ツバメでも、黒アゲハでもなく、
そして、悪魔でもなかったけれど、
いささかサイズは小さめながら、その形相と姿の不気味さは、
悪魔に匹敵(ひってき)するのではないかと思われたのでした。


その何とも異形(いぎょう)な生き物を
どうして、そのようにいとしそうな手つきで
手のひらの中におさめていられるのかと思っていると、


イアンは、片手にコウモリをうつし、
もう片方の手で、窓をあけたと思ったら、
コウモリをにぎっている手を、あけた窓からつき出して、




え~~っ!?




ど、ど、どうして、放してしまうんですかあ~っ。


自由を得たコウモリは、あれよあれよというまに羽を広げ、
ひらひらと舞ったかと思うと、
その姿はすぐに見えなくなってしまいました。


「なんでよ~。また、入ってきたらどうするのよ~」


ヒステリックに叫ぶわたしを落ちつかせるように、


「だいじょうぶさ。ちょっと迷い込んできただけなんだから。
もう絶対にもどってきやしないよ」



「絶対にっ!?」


「絶対に……」


「ほんとうに、絶対に、絶対にっ!?」


「ほんとうに、絶対に、絶対に……」


何度念をおしても、イアンが自信をもってそう言うので、
やっと、ふくれっつらの機嫌をなおして、
その日の夕食つくりの仕上げにとりかかったわたしなのでした。


いえね。わたしだって、
日中、ひとりでハドリアヌスの城壁に散歩へでかけたときなど、
うすぐらい木かげをコウモリがはたはたと飛びまわっているのを
目にすることはあるし、


飛びまわっているのが屋外で、
わたしめがけて飛んでくるのじゃあなかったら、
ご自由にどうぞ、いくらでも好きなだけ飛びまわってくださいなで
ことをすませることができるのでありますが、


こと、ひとりで家の中にいる時間に、
ふいに、わたしの顔面めがけて飛んでこられた日には、
そりゃあ、度肝をぬかれてしまうわけで、


そこのところ、もう金輪際こんなのはなしにしてちょうだいねと、
あのコウモリに、しっかりと肝に銘じてほしかったわけなのですね。


まあ、でも、イアンが、絶対にだいじょうぶだと太鼓判をおすもんで、
わたしも、それで納得して、この一件のことはきれいさっぱり忘れ、
田舎暮らしの貴重な体験ができたと思うことにしたというわけなのでした。






そして、それは、その翌日のこと……。
やっぱり、キッチンで夕食のしたくをしていた夕刻、
まな板の上においた食材をとんとんとんときざんで、
なべに放りこんだりなんかしていると、




んっ……!




あれっ、今、頭の上のほうで、
何か、ひらりとしませんでしたっけ?


ま、でも、それって気のせいですね。
昨日のコウモリは、もう外へ放したんだし、
まさか3日飼った犬のようにもどってきたりはしませんよね。


いやいや、わたしの疑心暗鬼もそうとうなものですよね~。
と、わたしひとりのフラットで、わたしひとりを相手に、
景気づけに、ぶつくさささやいてみるわたしなのでありました。


ところが……。


なべに放りこんだ食材をかきまぜたりなんかしていると、
また、


ひら、ひらぁ~り。


も、も、もしや……。
頭の片すみに、もやもやと暗い疑惑がふくらんできたと思ったら、
視界の片すみを、


ひら、ひら、ひらぁ~りっ。





ぎょっえ~~~っ!?





昨日にまして、驚愕(きょうがく)とした金切り声をあげるなり、
勝手口を飛びだしたわたしなのでありました。


けれども、その夜は、いくらイアンが探しまわっても、
フラットの中に、コウモリの姿を見つけだすことはできなかったのでした。
天井の屋根裏へのドアをあけ、懐中電灯で照らしてもみたのでしたが、
動くものの影も形もありませんでした。


とはいえ、この家の中に、コウモリがひそんでいることはたしかで、
もしかすると、家の中のどこかに一家で住みついていて、
ことによると、わたしたちより古い住人なのかもという気がしてきました。


ですが、いずれにせよ。


「もうこれ以上、コウモリといっしょにいるのは、やだっ!」


そう断言するわたしを、翌朝、イアンは、
コーブリッジの兄のコテージに送りとどけてくれました。
そのとき、コーブリッジの兄は、再び、南極観測船の勤務についていたので、
コーブリッジのコテージは留守になっていたのでした。


聞くところによると、人間の指先ほどのすきまさえあれば、
コウモリは、どこへでも出入りできるのだとか。
しかも、家の中に住みついていたとしても、住人に危害をくわえない以上、
コウモリやコウモリの巣に手出しをしてはならないらしいのです。


さすが、動物愛護にかけては先進国のイギリス
(でも、まだ一部には、きつね狩り愛好家もいらっしゃいますが)、
コウモリの方さえ気にしないなら、
人間は、コウモリが同居するのに異をとなえることは
できないというわけなのですね。


というわけで、
わたしたち、6か月の契約で借りていたフラットを半分の3か月でひきはらい、
その週末に、再びコーブリッジの兄の家にもどってくることにしたのでした。


ふいに、ひらり、ひらりとコウモリが飛びかうフラット、
今となっては、新婚のひと夏のなくてはならない思い出ではありますが、
もう1度住んでみたいかと聞かれたら、
わたしの答えは、絶対に、「ノー」なのであります。





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